ミスチル「いつでも微笑みを」、ゴダール、シャンタル・ゴヤ〜口笛と「引用」について

ミスチル「いつでも微笑みを」、ゴダール、シャンタル・ゴヤ〜口笛と「引用」について

ボンジュール、パリパリマセマセのたーしーです。ポップス(variété)大好き人間な私には、長年の疑問があります。それはブログタイトルにあるように、ミスチル「いつでも微笑みを」、ゴダール、シャンタル・ゴヤの三つに関係するものです。一見まったくの無関係に見えるミスチルとフランスの映画監督、およびフランスの歌手ですが、どうしてその三者の関係に疑問を持っているのか。根拠に乏しく、半ば妄想なのですが、日記代わりにその疑問についてブログに書いてみました。ぜひお付き合いいただけると嬉しいです 🙂

ミスチル「いつでも微笑みを」という曲について

口笛の旋律がある曲のメロディーに似ている?

Mr.Children、通称ミスチル。日本人なら一度は曲を、少なくともそのバンドの名を聞いたことがあるのではないでしょうか。そんなミスチルの「いつでも微笑みを」という楽曲は、2002年に発表された彼らの10枚目のオリジナル・アルバム『IT’S A WONDERFUL WORLD』(イッツ・ア・ワンダフル・ワールド)に収録されています。2007年10月から損保ジャパンのCMソングとして起用されたことで、そのメロディーを聞いたことがある方も多いかもしれません。

さて、「いつでも微笑みを」ですが、曲中に口笛(※)がふくまれています。この口笛は桜井和寿のオリジナルなのか、何らかの曲のサンプリングなのだろうか、これが謎なのです

(※)「冒頭や間奏に聴こえるトランペットの口真似はタック&パティのパティ・キャスカートによるステージから着想し、その旋律からは「歌の中にもうひとつ架空の楽曲を鳴らす」というアイデアも生まれていった」(『Mr.Children 2001-2005 <micro>』ライナーノーツ)とあるが、このブログ記事で口笛と呼ぶのはこれのこと。

個人的に、この「いつでも微笑みを」のメロディーを聞くたびに思い出す曲があります。それは、シャンタル・ゴヤが歌う「君はひどい嘘つき」 « Tu m’as trop menti » です。まずは Spotify やユーチューブで « Tu m’as trop menti » を聞いてみてください(https://www.youtube.com/watch?v=0kIMURVGgZw)。

聞きましたか? さて、この曲の couplet の間に挿入される「てーっててって、てっててって、てってててー」というメロディーは、ミスチル「いつでも微笑みを」の口笛のリフレイン「てって、てっててって、てってててー」に似ていませんか?

ここで「全然、似ていないよ!」と言われてしまうと、私は長い間ムダに悩んでいたということになるのですが ^^; いったん、この2つのメロディーが似ているのだと仮定しましょう。すると、どうしてもそこに何らかの関係を見出したくなります。

そもそも先に注釈で触れたタック&パティの例や、――これも桜井自身が語っていることですが――「いつでも微笑みを」が橋幸夫・吉永小百合『いつでも夢を』を意識して作られた一曲であるということを踏まえると、この曲が(ある意味で、その他のミスチルの曲以上に?)過去の作品を参照している可能性はあると考えられるのではないか、そう思うわけです。

ミスチルとシャンタル・ゴヤ、ミスチルとゴダール

ミスチルとシャンタル・ゴヤ

しかし、調べてみて私の知る限り、ミスチルがシャンタル・ゴヤについて触れている記事、ブログ等は見つけられませんでした。シンセサイザーによる導入はPaul McCartney, Wonderful Christmastimeが意識されているだろうとの指摘している方はいましたが(https://ameblo.jp/spanishkeyaug1969/entry-11260020705.html)。ふむふむ。

いずれにせよ、シャンタル・ゴヤ「君はひどい嘘つき」 « Tu m’as trop menti » とミスチル「いつでも微笑みを」直接結びつけるのは今のところ困難っぽい。ですので、このシャンタル・ゴヤの歌がそもそもどういう経緯で作られたのかを考えることにしました。

ジャン=リュック・ゴダール『男性・女性』(1966年)の挿入歌

この曲は、ジャン=リュック・ゴダール『男性・女性』(1966年)の挿入歌として作られました。この映画そのものについての説明は省きますが、「今日の若者と性について描く」と予告(Bande-anmonce)にある通り、シャンタル・ゴヤとジャン=ピエール・レオを中心に、当時の若者たちについて語った映画です。というか、Bande-anmonce が本当に本当にかっこよく、大好きなので「masculin féminin bande annonce」でググってみてほしいです。(リンク先 youtube: https://www.youtube.com/watch?v=0kIMURVGgZw

また、ウィキペディアにもあるように、本作のとりあえずの原作は、19世紀の小説家ギ・ド・モーパッサンの短編小説『ポールの恋人』(1881年)と『合図』(1886年)ということは有名です。

ミスチルとゴダール

ミスチルとゴダールには何らかの接点があるのでしょうか。ある時期まで、桜井は曲の中に結構固有名を引きます。たとえばミシェル・ファイファー(「#2601」)とか、ルイ・アームストロング(「タイムマシーンに乗って」)とか、『ショーシャンクの空に』(「one two three」)とか。その数は少なくありません。ではゴダールはどうでしょうか。ゴダールに触れているのは「蜃気楼」。以下のような歌詞です。

心の何処かに 今でも潜んでいる

“気狂いピエロ”が

「蜃気楼」が収録されているのは『Versus』(1993年)なので、『クロスロード』や『イノセントワールド』によって人気が爆発する前の初期ミスチルの作品になります。

触れれられているのは『気狂いピエロ』で、ゴダールの名前でも、『男性・女性』でもありません。しかし桜井がゴダールを(すべてかどうか定かではないが)観ていた可能性は高く、しかもキャリアのはじめの方に歌詞の中に引用する程度には彼の作品を気に入っていたと言えるのではないでしょうか。

ゴダール『男性・女性』における「引用」

このようにミスチルとゴダールには――それが小さなものだとしても――繋がりがありました。ではなぜ『男性・女性』、ゴダール、そしてシャンタル・ゴヤなのでしょうか。興味深いのは『男性・女性』が、ゴダールの作品の中でも、多くのレフェランスに富んだ作品であるという点です。シャルル・ド・ゴール、アンドレ・マルロー、ジェームズ・ボンド、ボブ・ディランといった時代の人や、ベトナム戦争や毛沢東の文化大革命といった歴史的出来事まで、さまざまな参照先へとこの映画は送り返されます。

また、カメオ出演に注目するなら(いつにもましてゴージャスらしい)、フランソワーズ・アルディやブリジット・バルドーへと私たちは導かれるかもしれません。

そもそも、先に触れたように、いちおうの元ネタがモーパッサンの小説であることも忘れてはなりません。

こういうわけで『男性・女性』というゴダールの映画は、少し文学っぽい言い方をすれば、「引用の織物」あるいは「間テクスト性」に満ちた作品であると言えるのではないでしょうか。

ゴダール『男性・女性』のパロディーとしてのミスチル「いつでも微笑みを」

ミスチル「いつでも微笑みを」に戻りましょう。もし、桜井がゴダール『男性・女性』を見ていて、それに影響を受けていたのだとすると、そこでシャンタル・ゴヤ「君はひどい嘘つき」 « Tu m’as trop menti » が選ばれたのにも意味があるように思えます。

もし「いつでも微笑みを」というひとつの楽曲の中に別の曲を挿入し入れ子構造をつくるためにシャンタル・ゴヤ「君はひどい嘘つき」 « Tu m’as trop menti » が選ばれたのなら、それは、この曲が使われた『男性・女性』が多くの「引用」により成立した映画だったからではないでしょうか。つまり、「いつでも微笑みを」におけるゴダール、ないしシャンタル・ゴヤの「引用」は、『男性・女性』という映画の特徴のパロディーだったように思えるのです。

ミスチル「いつでも微笑みを」、ゴダール、シャンタル・ゴヤ〜口笛と「引用」について おわりに

以上、ミスチル「いつでも微笑みを」、ゴダール、シャンタル・ゴヤに関する長年の疑問について、半分以上妄想で書いてみました。何か知っている方がいたら、何でも構わないので、ぜひ教えてほしいです🙏

そもそも2つのメロディーは似ているのだろうか、みなさんはどう思いますか??

……ちなみに私はというと、何回か聞いていたら「2つのメロディー、あんまり似てなくない?」という気もしてきました(苦笑)