なぜフランスのデモは怒りと暴力に満ちるのか〜Stephane Hessel, Indignez-vous ! を読む

なぜフランスのデモは怒りと暴力に満ちるのか〜Stephane Hessel, Indignez-vous ! を読む

ボンジュール、パリマセのたーしーです。パレスチナ問題に関するデモがすごいですね。BFM TVの報道によれば、フランス全土で22,000人、パリでは2,500から3,500人の参加者がいたようです。(参考:https://www.bfmtv.com/societe/manifestations/en-direct-rassemblement-en-soutien-aux-palestiniens-a-paris-des-manifestants-tentent-de-se-regrouper-malgre-l-interdiction_LN-202105150132.html

フランスのデモ等の抗議活動は激しいものが多いです。なぜそれらは、怒りと暴力に満ちているのでしょうか。今日は何年か前にフランスでベストセラーになった本を読みながら、その点についてぼんやりと考えてみました。

ステファン・エセル『憤慨せよ』とは

フランスの大ベストセラー本

ステファン・エセル『憤慨せよ』(Stephane Hessel, Indignez-vous !という本をご存知ですか。この本はフランスで2010年から11年にかけて100万部を超える大ベストセラーとなりました。

せいぜい30頁ほどの短い本で、すぐに読み終えられると思います。実は以前買ってから読んでいなかったのですが、気分を変えるために今日読み始め、早速読み終えてしまいました。内容はとても興味深かったです。

今日この本を思い出した理由のひとつが、まさに本書でパレスチナ問題について触れられているからです。著者のステファン・エセルは、しかも、自身がユダヤ人であるにもかかわらず、イスラエルのやり方に抗議しているのです。また、パレスチナ問題だけでなく、富める者と貧しい者の間の経済格差や、人間の権利等について著者は触れています

フランス語だったらキンドルで2ユーロ以下(!)で買えるのでぜひ読んでみてほしいです。

というか、調べてみたら邦訳もあるみたいですね。ステファン・エセル『怒れ! 憤れ!』(村井章子訳、日経BP)という本です。また、映像作品もあるようですね。面白そう。


ちなみにこの本についてのネット上で読める日本語での解説は オヴニーの記事がわかりやすいと思います(https://ovninavi.com/691_profil-2/)。

ステファン・エセル『憤慨せよ』の感想

邦訳もあるしググればそれなりに情報が出てくるので、ステファン・エセルの伝記的事実等をあらためて紹介したりはしませんが、せっかくなので『憤慨せよ』を読んだ感想をば。印象的な点は二つ、(1)サルトルへの言及(2)レジスタンス活動の強調です

サルトルへの言及

ステファン・エセル『憤慨せよ』の中で印象に残ったことのひとつはサルトルへの言及です。上述のオヴニーの記事にもあるように、エコール・ノルマル・シュペリュール(ENS)に入学しメルロ=ポンティらの講義を受けた著者のステファン・エセルにとって、サルトルはのENSの先達でした。エセルは、『存在と無』よりも、『嘔吐』や『壁』から影響を受けたと述べています(余談ですが、この『壁』という小説は、私にとっても、これまで読んできた小説の中でトップ5に入るものなのでぜひ読んでみてください)。

そんなサルトルの言葉がいくつか引用されています。引用の中で特に印象に残ったのは次のもの。

« Je reconnais que la violence sous quelque forme qu’elle se manifeste est un échec. Mais c’est un échec inévitable parce que nous sommes dans un univers de violence ; et s’il est vrai que le recours à la violence contre la violence risque de la perpétuer, il est vrai aussi que c’est l’unique moyen de la faire cesser ».

どんな形で現れるのにせよ暴力は失敗のひとつであると私はわかっている。しかしそれは避け難い失敗なのだ、なぜなら我々は暴力的な世界にいるのだから。つまり、もし暴力に反対するために暴力を拠り所とするということが、暴力自体を不朽のものにする恐れがあるとするならば、同様にそれが暴力を終わらせる唯一の手段であるということになるのだ。

サルトルにとっての「暴力」の問題は大変興味深く、もっとじっくり考えてみたいです。ひょっとすると« violence » には別の訳語があてられているのかもしれませんが、ご容赦ください。

さて、ステファン・エセルはというと徹底して「非暴力」 « non-violence » の重要性を説いています。暴力は、希望に背を背けてしまうからだそうです。したがって「憤慨せよ」という呼びかけが壊し屋 (casseur) やテロ行為の肯定に繋がることはありえないはずです

抑圧する側、される側の立場にたち、双方向の理解を経て、抑圧や圧政を消し去るためのネゴシエーションが必要だとステファン・エセルは述べます。そして重要なのはもろもろの権利(1948年の Déclaration universelle des droits de l’homme によって打ち立てられた権利)を基礎に据えることで、それが侵害 « violation »されたら「憤り」が掻き立てられねばならないということ。権利のために妥協してはならない、ということとステファン・エセルは述べているのです。

このような「暴力」をめぐるサルトルの思想とエセルのそれが印象に残りました。

レジスタンス活動の強調

二つ目の点は、レジスタンス活動がこの本(あるいは著者の)の根幹をなしているということ。そもそも、エセルによれば、レジスタンス活動のベースが「憤り」であるようです。当時はナチスや戦争に対しての、それから全体主義に対しての、とエセルは述べています。そして現在、再び俎上にのせられているのが「レジスタンスが勝ち得たもの」、つまり人間の諸権利だと著者は述べているのです。

それほどまでに、レジスタンス活動、そして第二次大戦が著者の中に深く根を張っているということなのでしょう。そして、文字通り戦ってきた人だからこそ、怒りと「暴力」の力の大きさを知っていて、「憤慨せよ」と私たちに告げるにいたったのかもしれません。

冒頭で触れたパレスチナのデモ活動や、ちょっと前の「黄色いベスト」のような激しい抗議活動に参加するすべての人々がこの本を読んでいるかどうかはわかりません。しかし、『憤慨せよ』というタイトルの本が大ベストセラーになるということは、その題と内容に共感する人がそれだけ多かったということの証でしょう。そして共感した人とは、他でもないフランス人なのです。したがって、フランス人について知るため、ひいてはフランスのデモにおいて怒っている人がこれだけ多い理由を知るためには、多かれ少なかれ、彼らが「憤慨せよ」という呼びかけに応じやすい性格であるということを心のどこかに留めておいてもいいのかもしれない、と思いました。

ただし、エセルの場合、上述したように非暴力を説いているのですけどね。

なぜフランスのデモは怒りと暴力に満ちるのか まとめ

世界にはいまだ解決されていない(また、これからどうなるかもわからない)課題が山積みです。自分たちの権利がおびやかされていると感じる時、エセルが言ったように、「憤る」ことが必要な場合もあるのかもしれません。最後に、本書の最後に書かれていた標語を引用しておきます。

« CRÉER, C’EST RÉSISTER.

RÉSISTER, C’EST CRÉER. »

創造すること、それは反抗すること。

反抗すること、それは創造すること。