「フー!シャテルトン」(Feu ! Chatterton):フランスのおすすめバンド

「フー!シャテルトン」(Feu ! Chatterton):フランスのおすすめバンド

ボンジュール、パリマセのたーしーです。今どきのフランスにもたくさんの素敵な音楽があるのに、日本語ではあまり情報がないようで残念です。ですのでパリマセで、少しずつ自分たちの好きなグループを紹介していけたらと思います。今日は「フー!シャテルトン」を紹介します。

フー!シャテルトンとは

イギリスの夭逝詩人がバンド名の由来

フー!シャテルトンはフランスのバンドで、2011年にパリで結成されました。

文学好きな方はお気づきのように、バンドの名前は、イギリスの詩人トマス・チャタトンに由来します。

トマス・チャタトンとは?

トマス・チャタトン(Thomas Chatterton,1752-70)は、いわゆるロマン主義的な不遇の詩人でとして知られている。ゴシック風の装飾写本に憧れていたチャタートンは、中世(エドワード四世の治世)の頃に生きた「トマス・ローリー」という架空の人物を作り出し、古い羊皮紙に中世英語の詩を書き「ローリー」の名で作品を発表した。

だが、さまざまな仕事に関わるも上手くいかず、困窮の極みに達したチャタトンはロンドンのブルック・ストリートの屋根裏部屋で砒素を仰ぎ自殺。この通りには、詩人の名前のついたプレートが見つけられる(※)。現在では「慈善のバラード」が特に有名。

(※)2011年頃にロンドンに行った時には確かにありました。

トマス・チャタトンについて日本語で読めるものだと、宇佐美道雄『早すぎた天才―贋作詩人トマス・チャタトン伝』(新潮選書)がまずは挙げられると思います。もし興味があったらぜひ読んでみてください。

チャタトンの一種の伝説的な生涯は、フー!シャテルトン以外にも、多くのアーティストに霊感を与えました。たとえば音楽の分野だと、ピート・ドハーティが有名かもしれません。そのことは、リバティーンズの後に彼が率いたバンド、ベイビーシャンブルズの2ndアルバム『ショッターズ・ネイション』のアートワークが、チャタトンを描いたヘンリー・ウォリスの一枚を意識していることからもわかるでしょう。ちなみに、ピート・ドハーティとフー!シャテルトンは、2016年にBrussels Summer Festivalで共演しました。

こういう経緯を踏まえると、”Feu ! Chatterton” はひょっとすると「フー!チャタトン」と呼ばれるべきだったのかもしれません。しかしながら実際は、フランス人たちは「フー!シャテルトン」とフランス語読みしていますね。ですので私も「シャテルトン」と呼んでいます。

ちなみに « Feu » という言葉は亡くなった方の名前の頭につき、日本語でいう「故〜〜さん」の「故」の部分にあたります。だから文字通りに訳するならば、「故チャタトン」というグループ名になります。

フー!シャテルトンのメンバー

フー!シャテルトンの物語は、リセ・ルイ=ル=グランから始まります。リセ・ルイ=ル=グランは非常に長い歴史を持つパリの中等教育機関で、いわゆるエリート教育の役目を果たしています。そんなエリート養成機関で、アルチュール・トゥブール(ヴォーカル)セバスティアン・ウォルフ(ギター、キーボード)クレマン・ドゥーミック(ギター、キーボード)の三人は出会います。その後この三人に、アントワーヌ・ウィルソン(ベース)ラファエル・ド・プレシニー(ドラム)が加わり、現体制となります。

2012年に『松の林に死す』'”La mort dans la pinède”をリリースし、ロック・アン・セーヌやフランフォコリーといったフェスに参加。その後もコンサートを開催したり音楽賞を受賞したりし、フー!シャテルトンは人気バンドになっていきます。

2013年から2019年の間、フー!シャテルトンは多くの土地をめぐるツアーをしています。フランスの都市はもちろん、スイス、ベルギー、ケベック、レユニオン、それからレバノンなど。コロナ禍が落ち着いたら日本にも来てくれるといいですね。

フー! シャテルトンは他の音楽グループやアーティストとも頻繁にコラボレーションしており、2018年には日本でも人気のアーティスト、ソフィ・カルの飼い猫「スーリー」に捧げる曲をつくるプロジェクトにも参加しました(”Le chat Souris”)。また、202124日からはインスタグラムやフェイスブックのライブ配信で « Couvre-Feu! Chatterton » (フー! シャテルトンというバンド名にフランス語で「夜間外出禁止」を意味する « Couvre-feu » をかけている)という番組もやっていて、そこにはたとえば L’impératrice(皇后) などの他のバンドが参加しています。

フー!シャテルトンの音楽

音楽のジャンル的には、いわゆるロック、ポップに分類されるのでしょうか。あるいはスポークン・ワードっぽさもあります。レディオヘッドやピンク・フロイド、レッド・ツェッペリン、テレヴィジョンから影響を受けているようです

また、作詞を担うアルチュール・トゥブールはセルジュ・ゲンズブールやアラン・バシュンに加え、レオ・フェレやバーバラといった、ルイ・アラゴンに代表されるフランス詩人を歌い上げたシャンソン歌手から影響を受けているというのが興味深いです。

ただ、フー!シャテルトンの文学性について考えるにはもう少し時間がかかりそうです。それでも、たとえば最近の曲の”Écran Total”における反復される”ɑ̃” あるいは “a”の音や、”Monde Nouveau”でやや皮肉に歌い上げられた、ンターネット時代の「新世界」は印象的です。特に次の一節は、”ciel” と “pixels” の響きもあいまって頭に残ります。

Comme une publicité qui nous masquait le ciel, des millions de pixels pleuvaient sur le serveur central.

空を覆い隠した広告のように、幾千ものピクセルが中央サーバーに雨のように降り注いだ。

いずれ、もう少し時間をかけてフー!シャテルトンの歌詞に向き合ってみたいですね。