【お菓子史】ガトードサヴォワ~中世から伝わるフランス菓子
- 2018/03/20
- お菓子史
Bonjour à tous! 最後の大寒波が過ぎ去り、一気に春めいた陽気のフランスはリヨンから、お菓子史ほーしーです。
さて先日、〝フランスのヴェネツィア〟と呼ばれる街、Annecy アヌシーに小旅行をしてきました。
観光地としても有名な小さな街の旧市街には、隣接するアヌシー湖から引かれた小運河がうねる様に巡っていて、そこに架かる小さな橋々や川沿いの風景は、正にヴェネツィアと称されるのに納得がいくものでした。(まだ実際にヴェネツィアには行ったことがありませんが…)
またこの街はアルプスの麓サヴォワ地方の一画ということで、赤を基調としたデコラシォンが可愛いサヴォワ料理のレストランも多くありました。
サヴォワチーズを使用した郷土料理の〝チーズフォンデュ〟
こんなにたっぷりですが18€程でいただけます。アヌシーは春、花の季節がなお一層美しいと評判ですが、冷えきった身体をチーズ料理とワインで温め、サヴォワ料理を一番楽しむ事が出来る、冬の旅行も個人的にはおすすめです。
さて、本題お菓子史!そんなサヴォワの地方菓子と言えば、こちら「ガトー・ド・サヴォワ」です。
材料は卵、砂糖、小麦粉、コーンスターチのみの極めてシンプルなお菓子で、14世紀に生まれたお菓子と言われています。
なにぶん古いお菓子なので起源には諸説あり、一説ではレシピの考案者は14世紀初頭に、サヴォワの伯爵アメデ6世(又は5世)の嫡子で料理長でもあったピエール・ディエンヌなる人物だと言われています。
そして1373年から1383年の間のいずれかの年(1365年説もあり)に、アメデ6世が公爵位の獲得を目的として神聖ローマ帝国のカール4世を招き、大規模な饗宴を催した際に作らせたお菓子として世に知られることになります。サヴォワの領地を模した箱庭を作り、そこに配置した巨大なガトー・ド・サヴォワに王冠を飾った演出で皇帝を多いに喜ばせる事に成功します。そして残念ながらこの事は直ちに出世には直結はしませんでしたが、後のアメデ8世の時代には念願の公爵位を無事に獲得する事が出来たのです。
また考案者については、ピエール料理長は1343年までのお勤めだった様で、つまりは実際に大宴会が開かれ、巨大ガトー・ド・サヴォワが作られた時には既にいなかったという事。そしてもう一つの説では、考案者としては別の人物、1348年から1367年まで料理長を務めたジャン・ドゥ・ベルヴィーユという人物の可能性もあるということ。
さらに別説では、そもそも宴会を催したのはアメデ8世であったとの説もあり。(美食家としても名高かった彼の料理人には、最古の料理書を記したタイユヴァンがいる。)これによると、巨大なガトー・ド・サヴォワを用意していたのに、切り分ける数を間違えてしまい一切れ足りず、アメデ8世は自分の分を会食者に譲ることになってしまったそう。その為、味の説明ができずに恥をかき、伯爵の地位を退く事に。しかし、結局ドイツ皇帝はもてなしに満足し、アメデ8世に公爵位を授けたという話だそうです。
どれが真実かは分かりませんが、お菓子が歴史的な役割を果たしていた事は確かな様です。また余談ですが、なぜこの時代のフランス貴族が出世の為にドイツ皇帝(当時神聖ローマ皇帝)に媚を売っていたかと言うと、神聖ローマ皇帝はローマカトリック教会が認める王として戴冠され、西ヨーロッパの諸王よりも優位な立場にあったからです。(プチ世界史…)まさに中世の、宗教が政治のなかで大きな権威を持っていたことが伺えます。
さてさてお菓子自体の話をもう少しすると、別名「ビスキュイ・ド・サヴォワ」とも言い、ウィキペディアには
「明確に別物とされる。ビスキュイの方は1700年ごろ以降に発生したものをさし、スポンジは非常に軽い。」
などと書かれていますが、現在は区別が無くなってきているとも思われます。実際に私がサヴォワ地方で購入したものは、非常に軽く、ビスキュイの様な食感にも関わらず、表記は「ガトー・ド・サヴォワ」でした。
レシピは非常に単純で、少しの配合の違いはもちろん、このお菓子の誕生した時代に比べて、卵を泡立てる為の機械やオーブンの進化などで、仕上がりに大きな差が生まれたとも言えるでしょう。
またシンプルなだけに、使う型によって焼き上がりの楽しみも変わると思います。目下、骨董品店や蚤の市で適当な型を見つけて、中世に思いを馳せながらガトー・ド・サヴォワを焼くこと目標にしたいと思います!
それではまた!
A bientôt ;)!!
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