『かぐや様は告らせたい』のフランス語シーンを翻訳し解説する

『かぐや様は告らせたい』のフランス語シーンを翻訳し解説する

ボンジュール、パリパリマセマセのたーしーです。

漫画『かぐや様は告らせたい』 アニメ3+OVA制作も決定していて、その人気はとどまることを知りません。ちなみに、Kaguya-sama: Love is War  というのが仏題(英題)です。

この作品にフランス語が出てくるらしいということで、アニメと漫画を見てみました。ふむふむなるほど。これ、とても良いですね。将来的に教材として使いたいくらいです


それで、『かぐや様は告らせたい』のフランス語シーンについて、それを翻訳してみたというブログはちらほらあっても、彼らのフランス語表現にまで踏み込んで解説しているものは全然なかったので、やってみました。そこにはネイティヴもよく使う生き生きとした表現がたくさん使われていました。

留学生と四宮かぐやのフランス語シーン

まずはフランス語で話しかけられ動揺する会長・白銀を前に、かぐやさんと留学生が交わした会話から。

かぐや様引用1
引用:『かぐや様は告らせたい』2巻

留学生のセリフ

1 Merci beaucoup pour votre invitation d’aujourd’hui.

1)今日はお招きありがとうございます。

まず、留学生は御礼を告げています。« Merci beaucoup » と丁寧に御礼を言っていますここで« vous » が使われているのは、招いてくれた人=学校関係者が複数だからでしょう

ちなみにここでは « Merci pour » が使われていますが、 « Merci de » でも良いかもしれません。この表現についてはこちらに書いています

四宮かぐやのセリフ

1C’est nous qui vous remercions d’être venus d’aussi loin.

2Nous ferons tout notre possible pour que vous gardiez un souvenir impérissable durant votre séjour parmi nous.

1)そんなに遠くからやって来てくださって御礼申し上げるのはこちらの方です。

2)皆さんの滞在中、いつまでも心に残る思い出をつくれるようにできる限りのことをさせていただきますね。

次にかぐやさんの返答。かなり流暢に返答しています。

« C’est nous qui vous remercions » は直訳だと「あなた方に御礼申し上げるのは私たちの方です」の意。留学生の先程の丁寧な御礼に対して、100点満点の返答です。

C’est…qui (que) で挟むと、挟んだ部分が強調されます。英語で言うところの It’s…that の強調構文みたいですね。強調せずに書くと、 « Nous vous remercions » となります。

ちなみに、« C’est … qui vous remercions » と言う言い回し、ネイティヴもよく使います。« C’est moi qui vous remercie » と「私たち」 « nous » の代わりに「私」 « moi » を使ったりもします。この場合、 « remercier » «moi » に一致して活用するので注意。

次に注目したいのは « Nous ferons tout notre possible pour que vous gardiez un souvenir impérissable ». 直訳だと「あなたたちがいつまでも心に残る思い出を得られるように私たちは全力を尽くすでしょう」ですかね。

« ferons » « faire » 「する」という動詞の未来形。招いた側が「できる限りのことをする」のはこれからのことなので、ここで未来系が使われるのはとても自然です。

« faire (tout) son possible pour inf. / pour que subj » と言うのは決まった言い回しで「(pour 以下のために)できる限りのことをする」の意 « pour que » と節を取る場合、以下は接続法(subjonctif)が続きます。当然、かぐやさんは正しく活用しています。

« un souvenir impérissable » 「いつまでも心に残る思い出」 « impérissable » と言うのが « périssable » 「儚い、脆い」という意味の単語に接頭辞 « im- » がつき否定形担ったものです。 « impérissable » の代わりに « inoubliable » 「忘れ難い」を使った、 « un souvenir inoubliable » という言い回しもよく使われますね。

留学生のセリフ

1 Je vous remercie.

1 ありがとうございます。

かぐやさんの返答に対する留学生の御礼。

「ありがとうございます」は、上述したかぐやさんの « Nous vous remercions » と同じ形です。主語が « Je » 「私」なので、それに合わせた活用をしています。

四宮かぐやのセリフ

1 Si vous avez besoin de quoi que ce soit, n’hésitez pas à nous le faire savoir.

1 もし必要なものがあればなんでも、遠慮なく私たちに知らせてくださいね。

« Si vous avez besoin de quoi que ce soi » は、 « Si » が英語の « If » なので仮定を表します。「もし〜」ならと言うやつです。

« vous avez besoin de… » « avoir besoin de…» という頻出の言い回しが使われています。「が必要である」の意です。先の « si » と合わさり、「が必要なら」と仮定の形なります。

« quoi que ce soit » 「なんでも」という表現。ネイティヴがめっちゃよく使います。「が必要なら」と表現の「」に当てはまるのが「なんでも」なので、「もし必要なことがあればなんでも」という風に訳せるわけです。

« n’hésitez pas à… » は直訳すると「をするのに遠慮しないでください」です。だから「遠慮せずに」となります。 « à » 以下には動詞の原型が置かれます。

ここでは « nous le faire savoir » 「私たちにそれを知らせるのを」遠慮しないでね、とかぐやさんは言っています。 « le » は前文を受けています。

はっきり言って、この一文はフランスで日常的に使う頻出表現が詰まっていて、とても良い例文だと思います。フランス語を第二外国語等でやっている方は、とりあえずこの一文を暗記すると良いでしょう。

かぐやさんの話すフランス語はConjugaison accord (性数一致)も間違っていない美しいフランス語です。すごい。とりあえず例文として覚えておこう。

藤原千花のフランス語シーン

次に藤原書記のフランス語でのセリフを解説します。

かぐや様フランス語引用2
引用:『かぐや様は告らせたい』2巻

藤原千花のセリフ

1 La pluparts [sic] des contenus japonais sont focalisés sur le marché domestique.

2 Le Japon n’a pas encore établi la façon de se promouvoir à l’étranger.

3 Les prix montent en flèche à l’exportation, il y a aussi les problèmes des ventes au rabais des licences des images…

(1)日本のコンテンツのほとんどは国内市場をターゲットとしています。

(2)日本は未だ外国に自らを宣伝するやり方を確立していなかったのです。

(3)輸出における急激な価格上昇、同様に画像ライセンスの安売りという問題もあります。

藤原書記は専門的な話をしています! おそらく日本の漫画・アニメコンテンツ産業に関する話なのではないでしょうか(クールジャパン的な)。こんな会話をできるなんて、さすが5ヶ国語を駆使するpolyglotte…!!

一つだけ、ちょっとしたミスがあります。冒頭の « La pluparts des contenus japonais » には « s » が不要です。正しくは « La plupart des contenus japonais » ですね。 « la plupart des… »の大部分、ほとんど」という言い回しもよく使います

まあでも、 « s » があってもなくても発音は変わらない(万が一ここに « s » がついたとしても、発音しないから)ので、千花ちゃんは完璧にフランス語を話していたと言えるでしょう。

白銀御行と留学生のフランス語シーン

最後に会長・白銀御行と留学生のフランス語を解説します。

かぐや様フランス語引用3
引用:『かぐや様は告らせたい』2巻

留学生のセリフ

1 Oh ! Je suis très intéressée par la culture japonaise et je souhaite faire mes études au Japon un de ces jours.

1 おお ! 私は日本の文化にとっても関心があり、近いうちに日本で勉強したいと思っていたの。

« je suis très intéressé par… » は「...に関心がある」という表現。 « intéresser » という単語は1日に10回は使います。 « (C’est) intéressant » 「興味深いね」とか、 « Ça m’intéresse » 「興味あるよ」とか。

« Je souhaite faire… » は「することを望む(したい)」という表現 « souhaiter » という動詞は「幸運や健康等を願う」という意味もあるので、 « Je vous souhaite bonne chance » 「幸運を祈ります」とか « Je vous souhaite bon voyage » 「良い旅行を」という風にも使います。

« Un de ces jours » は「いつか」という遠い未来より、「近いうちに」というニュアンスになるかと思います。 « ces jours » 「(来たるべき)これらの日にち」ののうちの一日なので。似たようなネイティヴ表現で、 « un de ces quatre » 「近いうちに」というのもあります。

白銀御行のセリフ

1 Enchanté mademoiselle.

2 Je m’appelle Miyuki SHIROGANE.

ちなみに生徒会長・白銀の自己紹介はフランス語でこう書きます。

初対面の人にする自己紹介としては完璧です。

ただ最近はジェンダーの観点から「マドモワゼル」と言わない風潮もないことはないですがそれは別の話。

『かぐや様は告らせたい』フランス語シーン解説 まとめ

以上のように、『かぐや様は告らせたい』のフランス語シーンはかなり自然だということがわかりました。さすが偏差値77前後のエリート校「秀知院学園」の生徒たちですね。

こういう漫画やアニメをきっかけに、フランス語の触れる機会が増えるのは個人的には良いことだと思います。ただでさえ外国語に対する関心が低くなってきている昨今、身近なコンテンツ経由で「フランス語って面白そう〜」と興味を持ってくれる方が増えたら嬉しいです。また何かあったら翻訳・解説できたらと思います:)

フランス語ラップに日本の漫画やアニメが引用されるように、日本の漫画やアニメにフランス語が出てくるのは嬉しいですね。