ベルトラン・ブラン「大洪水」(Bertrand Belin, “Un Déluge”)〜フランス語の歌詞を読み解釈する〜

ベルトラン・ブラン「大洪水」(Bertrand Belin, “Un Déluge”)〜フランス語の歌詞を読み解釈する〜

ボンジュール、パリパリマセマセのたーしーです。

フランス語のポップソングの歌詞を読み、解釈してみようのコーナーです。今日は、ベルトラン・ブラン「大洪水」(Bertrand Belin, “Un Déluge”)という曲を読んでみます。

 

ベルトラン・ブラン「大洪水」(Bertrand Belin, “Un Déluge”) 歌詞原文と試訳

ベルトラン・ブラン「大洪水」(Bertrand Belin, “Un Déluge”) 歌詞原文引用

(couplet 1)
Je vais te trouver c’est certain
Tu ne peux pas être bien loin
Étouffant tes rires d’enfante
Allongés sur le ventre

(refrain)
Je vais te trouver
Je vais te trouver
Un déluge pour toi
Un déluge pour moi
Pour nous un déluge

(couplet 2)
Toute la soirée j’ai cherché
Mon cœur ne s’est pas emballé
Par ma bouche l’air de dire
Jailli comme un sifflet de gaieté

(refrain)
Je t’ai retrouvé
Je t’ai retrouvé
Un déluge pour toi
Un déluge pour moi
Pour nous un déluge

Un déluge pour toi
Un déluge pour moi
Pour nous un déluge

ベルトラン・ブラン「大洪水」(Bertrand Belin, “Un Déluge”) 歌詞試訳

僕は君を見つけるよ それは確かさ
君はそう遠くにいられないんだ
子どものように君は笑い転げ
腹の上に寝転んでいる

僕は君を見つけるよ
僕は君を見つけるだろうよ
大洪水あれ 君に
大洪水あれ 僕に
僕らに大洪水あれ

毎晩 僕は探したんだ
僕の心は包まれてなくて
僕の口から 言いたいことが
陽気な笛のように湧き出てくる

僕は君を見つけたよ
僕は君を見つけたんだ
大洪水あれ 君に
大洪水あれ 僕に
僕らに大洪水あれ

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ベルトラン・ブラン「大洪水」(Bertrand Belin, “Un Déluge”) 解釈

ベルトラン・ブラン プチ紹介

ベルトラン・ブランは1970年12月7日にブルターニュに生まれました。音楽関連だと、割と最近、ピエール・バルーの「サラヴァ・レーベル」発足から50周年を記念した「サラヴァの50年」(50 ans de SARAVAH)というフランス/日本のアーティストたちが新録カヴァーしたCDが話題になったようですね。2016年に出てきます。

このCDにはベルトラン・ブランの他にはフランソワ・モレルらが、日本からはなんと椎名林檎とカヒミ・カリイが参加しているとのこと! こういう経路でフランスの音楽に足を踏み入れるという可能性もありそうですね。


またブランは、シンガーソングライターとしてだけでなく、作家としての顔ももっています。彼の “Vrac” (散り散り)という本はとても興味深い、大好きな本の一つです。また、友人によると “Requin” (鮫)という小説もおすすめらしいので近いうちに呼んでみなければと考えています。

 

「大洪水」とは何か

この曲「大洪水」と訳してみました。リフレインにある、

“Un déluge pour toi / Un déluge pour moi / Pour nous un déluge”

大洪水あれ 君に / 大洪水あれ 僕に / 僕らに大洪水あれ

という箇所は、“Après moi [nous], le déluge !” (直訳だと「我(我々)のあとに、大洪水よ来たれ!」、つまり「後は野となれ山となれ」ということ)ということわざを意識しているのかと思います。

この言い回しは、フランス王ルイ15世の愛人であったポンパドゥール侯爵夫人のものとされています。

その後、『資本論』で有名なカール・マルクスも言及しています。そういえば日本では、大阪市立大学のマルクス研究者・斎藤幸平さんが『大洪水の前に:マルクスと惑星の物質代謝』という本を最近出版されていますね。斎藤さんは『人新世の「資本論」』でも話題になりました。


閑話休題。この「大洪水」ですが、旧約聖書『創世記』にあらわれるものだと思われます。「ノアの箱舟」って聞いたことありませんか? 地上に増えた人々の堕落を見た主(神)が、大洪水をもって人類を滅ぼすとノアに告げ、ノアに方舟の建設を命じたという話です。方舟を作っている最中ノアは後ろ指をさされたようですが、その後40日40晩の大洪水が続き、地上に生きていたものは滅び尽くされました。そして、新しい生物が生まれだすのでした。

このように「大洪水」は古いものを一掃すること、新たなもの・純粋なものを生み出すことと深い関係にあるといえるでしょう。ブランの歌詞では、はじめのリフレインでは “Je vais te trouver” と近接未来形が使われているのに対して、2つ目のリフレインでは “Je t’ai retrouvé” と複合過去が使われています。つまり、歌詞の中で “je” (私)は、”tu” (君)を見つけたわけです。 しかしブランは次のように歌います。

“Un déluge pour toi / Un déluge pour moi / Pour nous un déluge”

大洪水あれ 君に / 大洪水あれ 僕に / 僕らに大洪水あれ

過去と未来が繰り返される時の中で、私たちは絶え間なく新しい “tu” (君)に出会います。ブランが歌っているのは、この“je” (私)は、”tu” (君)の関係性が、「大洪水」によって、常に古きものから新しいものへと変質させられているということなのかもしれません。